ちょっと最近教科書採択問題について調べるきっかけがありましたので、今日はその話をしましょうか。今日の産経新聞の記事にこんなものがありました。
「中学教科書採択 教委の権限明確化 制度改革めざし通知 文科省方針」
ちょっと長いですけど、残しておきたいですね。前半部分をまるごと引用しましょう。
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文部科学省は二日、今年八月に行われる中学教科書採択での正常・公正な採択環境確保に向け、制度の改革に乗り出す方針を決めた。当面、四月にも全国の都道府県教育委員会あてに採択手続きの改善を求める新たな初等中等教育局長通知を出す。前回平成十三年の採択では、扶桑社の歴史教科書をめぐって、いったん決まった採択が取り消されるなどの混乱があった反省から、教育委員の権限を明確化する。ただ、局長通知は強制力がなく、都道府県ごとの採択日を統一する案なども見送られており、なお課題を残した形だ。
同省の山中伸一審議官と片山純一教科書課長が二日、自民党の有志でつくる「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(古屋圭司代表)の総会で明らかにした。
十三年の中学教科書採択では、扶桑社の歴史教科書を推した教育委員らが脅迫やいやがらせを受けるなど正常な採択が阻害されたため、採択から一年後の八月三十日付で、初中局長通知が発出された。
教科書採択は地方教育行政法で教育委員が管理、執行すると定められているが、実際は現場教師の意向で採択が決まるなどしてきた。こうしたことを受けて、この日の会議で山中審議官らは(1)教委の採択権限を明確化し、「市」を単独の採択地区とするよう「不断の見直し」に努める(2)共同採択地区については採択ルールを定め、あらかじめ公表する-などの考えを示した。
また、教委が作成する選定資料に関しては、学習指導要領に示された「わが国の歴史に対する愛情を深め」という「目標」に即し、各教科書の違いが簡潔・明瞭(めいりょう)に分かるものにするよう指導する方針を表明。教育委員の決定は選定委員会や調査委員会など下部機関の示した選定資料には拘束されないことも再確認した。ただ、議連が要請した「採択を決める教委会議の非公開」や、外部からの妨害や干渉排除のための「都道府県ごとの同一日の採択決定」については「教委の独立性から文科省は指導できない」とした。
(産経新聞) - 3月3日3時7分更新
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背景を説明しますと。
扶桑社版の中学校向け教科書「新しい歴史教科書」については数年前、大きな論争になったので皆さん覚えてらっしゃいますね。しかし彼らの教科書は、蓋を開けてみると2001年の採択成績0.039%と思ったほどの影響力を及ぼさなかったので、論争自体もそこで尻すぼみになってしまっていたようです。しかし、彼らはその後もより多くの採択に向けて準備を着々と進めていました。
最近、各地で公立中高一貫校の開校が相次いでいます。中学校が開校するわけですから、教科書を選ばなくてはいけません。本来の採択周期以外に、その各県1校か2校の新設校のために教科書採択が行われるわけですね。彼らはそこに白羽の矢を立てています。全国でこの中高一貫校の教科書採択がある度に、彼らの動きがちらちらします。市民団体や教員組合が、県教委に対して扶桑社版を採用しないよう要望書を出したりしています。全国で様々に攻防が繰り広げられています。
特に大きな動きがあったのは愛媛県でした。扶桑社版の教科書は、2002年夏に中高一貫校向けの教科書として採択が決まりました。公立普通学校としては全国初です。この採択過程は不透明なものだったようで、その後様々な市民団体が連携して訴訟などを起こしています。
あと最近あったのは東京都ですね。台東区にこの春開校する白鴎という中高一貫校です。昨年末、全国で2例目の公立普通学校採択です。私立では現段階で8校が採用しているそうです。
本文中にある「前回平成十三年の採択では、扶桑社の歴史教科書をめぐって、いったん決まった採択が取り消されるなどの混乱」とは、栃木のことでしょう。栃木県教委は愛媛に先駆けて2001年7月、公立中学校初の採択を決定しました。けれどその採択決定があまりに急に行われたという不明瞭な過程が世論の批判を受けて、決定を取り下げざるを得なくなったんですね。
どうやらこの記事で言う「正常・公正な採択環境確保」とは、扶桑社版を採択するのに不都合のある環境を「正常」化したいと、そういうことのようです。教育委員の権限を明確化、強化するわけですね。「教科書採択は地方教育行政法で教育委員が管理、執行すると定められているが、実際は現場教師の意向で採択が決まるなどしてきた。」現場の教師を無視した採択が、どのような意味を持つのでしょう。要するに教科書採択とは、政治であるようです。
ところで今期の自民党方針、ご存じですか。教科書についてはこんな感じです。
「教科書の検定・採択は、客観的かつ公正、適切な教育的配慮がなされるよう努める。偏った歴史観やジェンダーフリーなどに偏重した教科書は、その内容の適正化を求める。」(産経新聞) - 1月19日3時7分更新記事より
ナルホド、各社による従来の「自虐史観」教科書は大いに偏っていて、「適正化」しないといけないんですか。今後は愛媛、東京に引き続いてさぞや多くの県で「正常・公正な」採択が行われることになるんでしょうね。